ゼロからはじめたUXリサーチ
この記事はプロダクトマネージャー Advent Calendar 8 日目の記事です。
こんにちは。ブランドソリューションプロダクト戦略部のルナ(@jeuxd1eau)です🌙
私はファッションコーディネートアプリ「WEAR」のプロダクトマネージャーの1人として、新機能の企画からリリースまでのプロセスを主に担っています。
現在WEARのPMチームでは、Google Analyticsなどの定量データと、インタビューやアンケートなどの定性データを併せて活用しながらサービスに向き合っています。
しかし1年ほど前までは、定量データの活用は当たり前だったものの、定性データについては収集し管理する担当者がいない状態でした。
この記事では、そんな"ゼロリサーチ"時代にチームをつくるところからUXリサーチの結果を出すまでの取り組みについて、体験談を共有します。
過去のわたしたちと同じく"ゼロリサーチ"の状況に危機感を感じているPMのみなさまに、1つでも多くのヒントをプレゼントできますように!🎄🎁
ゼロリサーチ時代の課題
UXリサーチの取り組みを始めるまで、私は大きく3つの課題を感じていました。
①担当者の不在
WEARチームには、リリース時からWEARの定量データを管理・分析しているアナリストが所属しています。そのため、KPIモニタリングや施策の効果試算・検証、A/Bテストといったデータ活用は当たり前の環境でした。しかし、定性データに関しては担当者がおらず、データ収集さえ積極的にはできていない状況でした。
②根拠のない議論への漠然とした不安
WEARのメンバーは、ユーザーのためになる体験を届けたいという意識をもった人の集まりです。「これだとユーザーは喜ばないのではないか」「この指標が悪化したのは、ユーザーはこのように感じているからではないか」といった会話が日々飛び交い、ユーザー視点を大事にする一方で、ユーザーの意見を直接聞かずに作ったプロダクトは、ユーザーが本当に欲しいものとは一致しないのではないか、と考えるようになりました。
特に私は当時新卒でWEARチームに入ったばかりで、運営側からプロダクトを見る経験値が少なかったため、入社前までの自分の体験に偏ってしまうことへの不安が大きかったと感じています。「ユーザーファースト」を「自分ファースト」に置き換えてしまわないように、という危機感がありました。
③新ミッションに対する解像度の低さ
WEARでは昨年、「ファッションデータを集めて人々のファッションの悩みを解決する」というミッションを新たに策定しました。
しかし、このミッションを達成していくにあたり、"解決すべき人々のファッションの悩み"というのは具体的にどんなことを指すのか、自信を持って答えられる人はいませんでした。そのため、ミッションをアクションに落とし込むための材料が必要でした。
これらの課題を解決するには、UXリサーチを中長期的なプロジェクトにすることが必要だと考えて、取り組みを始めました。
チーム作り
“ゼロリサーチ”の状態からUXリサーチを社内プロジェクト化するには、①リサーチの社内における優先度を上げる②チームを作る、2つのステップが必要だと考えていました。
はじめに行ったのは、業務時間外での簡単なヒアリング。身の回りの人にファッション事情やWEARの印象を聞く活動です。
初めて行った時は、ファッションが好きな人でも、考えや行動が自分や周囲の人と大きく異なることがあることをリアルに感じることができ、リサーチの重要性を肌で感じました。
ヒアリングの結果をSlackで社内共有したところ、回数を重ねるにつれて消費者の多様性が伝わっていったのか、メンバーからの反応はどんどん増えていきました。その段階で、このようなリサーチはしっかりと継続的に実施する必要があるということで、業務内で取り組むことになりました。
こうして、まずは小さくリサーチを実施し結果を共有することで、リサーチの必要性を周囲にも感じてもらい、優先度を高めて業務に組み込むことができました👏
次に私は、以下のような理由から、1人で実行するのではなくチームを作ることが重要だと考えました。
相談相手がいることで、議論が前に進む
チームを名乗ることで、WEAR組織内でのリサーチのプレゼンスを高められる
当時新卒2年目になりたての私には、一緒に伴走してくれる先輩が必要
また、私はUXリサーチチームを作るにあたって、リサーチのモチベーションが高い人を集めることを重視していました。そこで以前にWEARISTA(※)向けインタビューの経験があり、ヒアリングの共有によく反応をくれていた運営チームの先輩にお声がけし、上長にも相談して、組織図とは別のプロジェクトチームを結成しました。
現在は4人で半期ごとのプランを定めて活動しているUXリサーチチームですが、最初は私と先輩の2人きりで週1回の雑談の会を設けていただけでした。話し合いやアウトプットを重ねていく中で、人数・活動内容ともにゆっくりとチームを大きくしていきました🌱
主な取り組み
私たちUXリサーチチームがこの1年間で取り組んだ施策をいくつか紹介します。
Slackチャンネル運営
まず初めに行ったのは、2つのSlackチャンネル運営でした。
WEARに関するTwitterの口コミが自動で流れてくる #wear_twitter チャンネル
定性的なデータを誰でも自由に投稿・閲覧できる #wear-voc チャンネル
#wear_twitter はIFTTTを使い、とても簡単に始めることができました。以前から定期的に取得していたアプリレビューに比べてポジティブな口コミも多く、運営・開発陣のモチベーションにもつながっているように感じます。
#wear -vocは現在UXリサーチチームのリサーチ結果の共有がメインになっていますが、テックカンファレンス「RubyKaigi」で行ったアンケートの結果など、リサーチ活動・メンバー外からの口コミなどもここに集約しています。
このチャンネルはWEARチームのメンバーはもちろん、ZOZOTOWNのチームのメンバーも多数参加してくれていて、注目のチャンネルになりつつあります✨
デプスインタビュー
チーム初のメインプロジェクトは、デプスインタビュー(※)でした。
冒頭に挙げた"人々のファッションの悩み"の解像度を上げるべく、WEARユーザーにランダムにオファーして18件のインタビューを実施しました💬
最も時間をかけて取り組んだのは、インタビュー設計です。
まず初めは、チームメンバーでユーザーに聞いてみたいことをリストアップし、その内容をもとに試しに社内でテストインタビューを実施しました。すると、確かに聞きたいことは聞けた気がするものの、このまま回を重ねても何も結論が得られないように感じました。ゴール設定ができていなかったことが原因でした。
そこでまず、インタビューのゴールを“中規模の新機能・企画の立案”と設定し、それをもとに設計を練っていきました。顧客の購買プロセス「AICEAS(アイシーズ)の法則」にある6つのステップをもとに設問を組むことで、ファッションに関する行動について満遍なくヒアリングし、その中で消費者のニーズやペインを拾えるような設計を心がけました。
そして、インタビュアーとしてのスキルを高めるために再度社内でテストインタビューを実施してから、実際のユーザーにインタビューを行いました。
インタビュアーとして1番難しかったのは、インタビュイーによって回答の長さや粒度がバラバラであることでした。誘導にならないように回答を深掘りしつつ、タイムキープにも注意を払うのはスキルを要しました。協力者が集まらずインタビュー実施日の間隔が空いてしまった時は、特にそのあたりの感覚を失ってしまって苦労したことも多かったです。インタビューにはメインインタビュアー1名、サポート1名の計2名が参加していたので、うまくいかない時はサポート係に助けてもらうようにしていました🤝
また、インタビューを重ねるにつれ、質問の順番や粒度なども調整していきました。最初は一言一句同じ文章を読み上げる構造化インタビューを行うことで、回答のばらつきを抑えようとしていました。しかし深掘りのための質問と既定の質問を行き来するのが難しかったので、設問の抽象度を高めて半構造化インタビューに変えました。インタビュアーに委ねられる範囲が増えたことで、スムーズかつ質の高いインタビューを行えるようになりました✨
このように改善を重ねながら18件のインタビューが実施できたところで、“人々のファッションの悩み”についてある程度の傾向を得ることができましたが、以下の新たな課題が現れてきました。
全インタビュイーに共通する回答は得られなかったため、どれが市場規模の大きな悩みなのかわからない
WEARユーザーと非ユーザーが同じ悩みを持っているのかわからないため、今回の結果をもとに立てた施策が新規ユーザーにも効くのか確かでない
これらの課題を解決するため、WEARを利用していないユーザーも対象に含めたアンケート調査を行うことにしました。
アンケート
アンケートは、前段で述べたような課題を解決するため、ZOZOTOWNの会員に向けて実施しました。
アンケート設問の設計はインタビューと比べると比較的スムーズでしたが、ワーディングには注意を払いました。ワーディングとは、質問の文章を始め、質問の順番や選択肢の内容といった、アンケートを設計するときに注意すべき諸々の項目のことです。私が参考にした『社会調査法入門(盛山和夫・著, 有斐閣ブックス)』という書籍はとてもおすすめです📗
WEARユーザーと非ユーザーが同じ悩みを持っているのかわからない、という課題に対しては、"WEARの利用有無や頻度によって、その他の質問の結果の傾向は変わることはない"という仮説を立て、WEARの利用頻度に関する質問とその他の質問の結果の相関を分析してみました。この分析のために、統計分析フリーソフト「R」に初挑戦してみましたが、簡単なコードですぐに結果を出してくれるのでとても便利でした📊
こうしてリサーチの分析結果が出揃ったところで、チーム内で結果報告会を開催しました。
リサーチ結果の共有
リサーチ結果の社内共有は大きく3つに分けて行いました。
1つは、リアルタイムの結果共有。
インタビューはGoogle Meetのブロードキャスト機能を使って、WEARメンバーなら誰でもリアルタイムで見られるようにしていました。ただし、インタビュー内容を全て見てもらうハードルは高いと感じていたので、後日ビジュアライズしたレポートを先述の #wear -voc に共有していました。定期的に情報を流すことによって、UXリサーチチーム以外のメンバーもリサーチ結果に触れる頻度を増やしていきました。
2つめは、全体定例での報告。WEAR関係者が全員参加する毎月の全体定例にて、KPIの報告の後にUXリサーチチームの報告タイムをもらっていました。
ここではできるだけ多くの人にリサーチの内容や結果に興味をもってもらうことをゴールにしていました。KPIの報告のあとに時間をもらったことで、重要性のアピールにもつながったのではないかと思います。
最後に、プロダクトマネージャーと運用チームのメンバーに向けて、インタビューの分析後、アンケートの分析後にそれぞれ報告会を開催しました。その場でリサーチ結果の活用について雑談を行ったり、今後のリサーチ方針について合意形成をとることで、“ただデータを取得する”だけで終わらせず、より広く活用してもらうための議論を行いました。
これらの3つの報告によって、リサーチ文化をWEARチームにうまく浸透できたのではないかと思います✨
UXリサーチで得たもの
これらの活動を通じて、現在のWEARでは冒頭に挙げた3つの課題が以下のように解決されました。大きな大きな収穫です🥕
①担当者の不在
→チーム作りとデータ収集・発信の習慣化
②根拠のない議論への漠然とした不安
→ユーザーの定性データが議論で飛び交う
③新ミッションに対する解像度の低さ
→プロダクトのミッションをユーザーの意見を通して施策に落とし込めるように
また、それぞれに対して、予想以上の収穫もありました。
①に関しては、社内で発信を重ねてきたことにより、ZOZOTOWNのチームメンバーにもその活動やリサーチ結果に興味を持ってもらうことができました。
②に関しては、定量データをメインに扱う議論の場で仮説を立てていた際、「定量データはないけれど仮説に該当するようなインタビュー回答があった」と共有したところ、議論が前向きに進んだことがありました。私としては、n=1のデータはあくまで定量データの解釈の補助くらいの説得力しか持たないのではないか、と考えていたので少し驚きました。定量データは仮説検証に向いていますが、定性データ、特に探索型リサーチの結果からは広く浅い知見が得られるので、仮説を立てる段階で有用だと改めて実感しました。
③に関しては、リサーチを進めていく途中で経営戦略に追加した「ワクワクできる『似合う』を届ける」が、当時進行中だったリサーチの内容と重なる部分が大きく、プロダクトレベルではなく会社レベルのミッションを、ユーザーの定性データを活用して施策に落とし込むことが叶いました。
「絶対にやるべきだ」と感じて動き始めたUXリサーチチームの活動ですが、"ソウゾウのナナメウエ(※)”な結果を残すことができたと感じています。
今後もUXリサーチの先輩方の発信を参考にしながら、継続的な取り組みを行い、成果を出していきたいと思っています💪💪💪
おわりに
ゼロから始めたUXリサーチの取り組みについて紹介しました。少しでも参考になれば幸いです!
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