ZOZOはなぜDevRelの専門組織を立ち上げたのか?スタッフが語る1年間の振り返り
ZOZOの技術ブランドを向上させる、DevRelブロックの発足
──── ZOZOは2023年2月に、DevRelをおこなう専門の組織「DevRelブロック」を立ち上げました。どのような経緯があったのでしょうか。
堀江:以前から、技術広報そのものは実践していました。2017年にVASILYがZOZOのグループ会社となり、彼らがおこなっていた広報活動を引き継ぐ形で、テックブログを更新するなどの活動はしていたんです。
また、かつては、かなり尖った求人広告を出したこともありました。
ご存じの方もいるかもしれませんが、「マウス片手に命を懸けて 咲いて散るのがエンジニア」といったラップ調の言葉でメッセージングした求人広告です。
話題にしていただくためのアクションは、実は今までも少なからずあったのです。
──── 組織が立ち上がる以前から、発信活動はしていたんですね。
諸星:ただ、専任のスタッフがいたわけではなく、リソースの問題でなかなか積極的な情報発信はできていませんでした。
スタッフがテックブログを書いてくれたり、イベントに登壇してくれたりしていましたが、それでも十分といえるほどの発信はできていませんでした。「想いはあるけれど、時間が足りない」というのが、それまでの課題だったのです。
DevRelブロックが立ち上がったのは、カンファレンスの運営経験を持つ長澤がZOZOに入社したことが最も大きな理由です。
技術への理解があるエンジニアであり、なおかつ広報活動にも知見のある長澤と出会えたことで、いよいよ本格的にDevRelに力を入れていく意思決定ができました。
──── 長澤さんはもともと、DevRelを経験されていたのでしょうか。
長澤:DevRelに専門性があるわけではなかったものの、カンファレンスの運営経験がありましたし、その経験が求められていることを知り、チャンスがあれば技術広報を本職にしたいと考えていました。
とはいえ、技術広報を本職にするのは簡単ではありません。技術広報の必要性を感じていない会社も少なくないので、会社によっては「なぜ必要なのか」を説明するところから始める必要があり、ハードルが高いのです。
一方、ZOZOは技術広報の重要性をしっかりと感じていて、専任のスタッフを探しているタイミングでもありました。私のやりたいことと、ZOZOの課題が、ちょうどよく重なるタイミングで出会うことができ、入社することになったのです。
技術と文化を周知する、ZOZOの発信支援
──── DevRelブロックが立ち上がってから、具体的にどのようなアクションを実施されてきたのでしょうか。
長澤:まずは、技術広報の要となる、テックブログの発信を強化することに取り組みました。エンジニアが記事を書きやすいようにテンプレートを作成したり、社内向けに毎月作成している『DevRelブロック通信』にライティングのTipsを盛り込んだり、記事を書くハードルを少しでも下げられるように支援を行っています。
ほかにも、カンファレンスのテーマになるネタを出す企画会議を実施したり、登壇資料をテンプレート化したり、重要度が高いことに集中できるサポートもしています。
さらに、カンファレンスのリハーサルもおこなっています。セールスのロープレのように、魅力的な発表ができるよう会社として支援しているんです。
──── 以前と比較して、DevRelブロックが立ち上がってから、どのような成果が出ているのでしょうか。
諸星:テックブログについては、記事の更新スピードが明らかに向上しました。エンジニアが記事を書くハードルが下がったのはもちろん、レビューの体制が整ったことで、フレッシュな情報が滞りなく発信できるようになったのです。
かつては、せっかく記事を書いてもらっても、レビューに時間がかかり更新が遅くなってしまうことがありました。
情報はフレッシュでなければ価値がなくなってしまうこともあるので、そうした事態を遠ざけられたことで記事の反響も大きくなり、エンジニアたちが記事を更新するモチベーションも高まりました。
堀江:勉強会やカンファレンスを主催する際も、DevRelブロックが全面的に支援できるようになったので、開催ハードルが下がったと感じています。イベントの準備や運営などはこちらで巻き取れるので、エンジニアたちにますます主体性が出てきているんです。
──── 取り組みが成果を上げ始めている背景には、どのようなポイントがあると分析していますか。
諸星:一般的にDevRelは大きく分けて、HRやPRが音頭を取るパターンと、エンジニア出身のスタッフがプロジェクトを推進するパターンの2つがあります。
ZOZOは後者なのですが、もともとエンジニア組織が別会社だったこともあり、これがフィットしていたのだと思います。エンジニアの生態系を理解しているメンバーが技術広報に手を広げたことで、取り組みがうまくワークしました。
また、ZOZOにはスタッフ同士を強くリスペクトするカルチャーがあるので、新しい取り組みを始める際も、多くの仲間が協力してくれました。エンジニアが一丸となって技術広報に取り組んだことが、成果が出ている最大の要因です。
エンジニアが光り輝く、真のテックカンパニーを目指して
──── ZOZOのDevRelブロックは、どのような組織を目指しているのでしょうか。
長澤:ZOZOの技術ブランドを向上させていくことはもちろんですが、所属するスタッフが光り輝く支援をできる組織でありたいと思っています。
自ら情報を発信したり、カンファレンスに登壇したりすることが必要だと感じていても、「テーマが思いつかない」「書いた内容が適切か自信がない」という不安を抱えているエンジニアは多くいます。
そうした不安を取り除き、ZOZOのエンジニア一人ひとりが輝ける環境を提供できたら、会社とスタッフの双方にとってポジティブです。目指すべきDevRelのゴールだと思っています。
諸星:発信が得意な人だけでなく、苦手な人も含めて、下支えをする「縁の下の力持ち」になれたら理想的です。
DevRelは直接的な利益を生む部門ではありませんが、エンジニアのレピュテーションを向上させていくことで、それが利益につながっていく側面もあるはず。会社と個人、双方のメリットを追求していきたいです。
堀江:エンジニア界隈といいますか、業界の発展にも貢献できたら嬉しいですよね。綺麗事に聞こえるかもしれませんが、記事を更新したり、カンファレンスを開催したりするのは、業界のためでもあるんです。
私たちが発信した情報で、技術力を向上させることができたり、コストを削減したりできれば、少なからず業界に貢献できます。自分たちだけで情報を保持することもできますが、私たちが他社の発信から学ばせてもらう機会も少なくないので、同じように貢献していきたいのです。
その結果としてZOZOに興味を持ってもらえたら嬉しいですし、スタッフのキャリアに好影響を与えられたら、それ以上に素晴らしいことはありません。
掘っても掘りきれない魅力を、もっと世界へ
──── これまでの活動を通じて、感じている課題や、今後の目標があれば教えてください。
長澤:入社して1年が経過しましたが、まだまだ伝えきれていない魅力がたくさんあると感じています。
技術カンファレンスの協賛支援であったり、スタッフのカンファレンスへの参加支援だったり、ZOZOのエンジニアの成長に投資する文化を世の中にもっと届けていきたいと思っています。
また、発信した情報を大きな話題にしていくことも、まだまだできていない状況です。せっかく書いてもらった記事ですから、たくさんの人に読んでいただけるよう、より戦略的な広報活動を実施していけたらと思っています。
堀江:他社からZOZOのエンジニアにオファーが来るくらい、活発な情報発信を目指していきたいです。エンジニアの人手不足は深刻になっていて、どの会社さんも優秀なエンジニアを探しているのはみなさんがご存知の通りです。
ZOZOで働くスタッフには、これからもZOZOで活躍してほしいと思っていますが、他社から声がかかるくらいになってくれたら、DevRelブロックとしてそれ以上に嬉しいことはありません。
個人が力を付けるサポートを最大限に行い、それでいて働き続けてもらえる組織づくりをしていくのが会社の役目です。DevRelブロックの活動を起点に、魅力的なエンジニア組織の構築に拍車をかけていけたらと思っています。
諸星:個人的な想いでもありますが、ZOZOからタレントエンジニアを発掘していきたいと思っています。
イベントやカンファレンスに登壇しているエンジニアは、実は同じ人であることがよくあります。発信力が高いので、さまざまな場所から声がかかっているんです。
ZOZOには高い技術力を持ったエンジニアが数多く在籍しているので、彼らの才能を見出してあげることも、DevRelブロックの役割のはず。
堀江さんが言うことに通じますが、発信力をつけてもらうことで、どこからでも声がかかるエンジニアをたくさん生み出すことができたら、DevRelブロックとしての役割を果たせたと言えるかな、と思っています。