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AIを活用し、ユーザー体験を新次元へ。ZOZO NEXTの新規事業開発を担う「MATRIX」チームの挑戦

ZOZO NEXTのR&D部門である「MATRIX」。AIツールを活用したバーチャルフィッティングやバーチャルギャラリーなど、先端技術によって従来のファッション領域にはなかった新たな価値を創造しています。
MATRIXのDevメンバーはファッションテック領域の可能性をどのように捉え、新規事業を創出しているのでしょうか。チームのあり方や現在までの取り組み、これからの展望を聞きました。

武田修平(MATRIX / 2018年中途入社)
Webサービスで新規機能や分析基盤の開発を経験後、2018年に株式会社ZOZO NEXTに中途入社。MATRIX本部Dev部で開発のリードを務める。Webの開発をメインとし、プロジェクト管理やデータ分析など広い領域を担う。趣味はゲームとガーデニング。

ベルトルシ ブルノ/Bruno Bertolucci(MATRIX / 2018年中途入社)
フランスで5年間コンサルタントとして、そして日本のソーシャルゲーム会社で5年間勤務した後、2018年に株式会社ZOZO NEXTへ中途入社。現在は、ZOZO NEXTのメンバーとして、バックエンドおよびインフラエンジニアとしてMATRIX本部Dev部で開発チーム向けに様々なプロトタイプを担当。趣味はプログラミング、天文学、漫画、PCゲーム。

ボトムアップで新規事業開発を進める「MATRIX」

——はじめに、2人がMATRIX(ZOZO NEXT)を活躍の場所に選んだ理由を聞かせてください。

武田:私はZOZO NEXT発足前の2018年にZOZOへ入社しました。ZOZOには、技術はもちろん、仕様やプロダクト体験なども含め、フラットに意見を出し合いながら開発に打ち込める環境があったからです。組織変更によってZOZO NEXTとなった現在も、その魅力は変わっていないと感じます。

ブルノ:私も2018年にZOZOへ入社し、物流・配送のバックエンド開発とサポートを担当しました。2017年にサービス開始した初代「ZOZOSUIT」(採寸用ボディースーツ)など、ファッション業界を変える可能性を秘めた技術や考え方を持つこの会社が好きになりましたね。その後は新しく結成されたイノベーション・イニシアティブ・チームに参加。このチームがのちに「MATRIX※」と改名されることになります。

※MATRIX:6つの注力領域(MEDIA、AI、TEXTILE、ROBOTICS、IoT、XR)の頭文字をとって構成された、新たなテクノロジー領域にファッションを掛け合わせ、新規事業創出を目指す部署

——MATRIXで担っている役割は?

ブルノ:サーバーサイドロジックの開発やデータベース管理、システムのセキュリティとスケーラビリティの確保、仕様書の作成、新しいプロジェクトのアイデアの発見、そして将来のプロジェクトに使用する新技術の調査などを担当しています。

武田:私は自らコードを書きつつ、開発全般のマネジメントを担当しています。MATRIXの新規事業開発はボトムアップで進めていくことが多く、プロジェクト全体の計画を立てたり他チームと協働したりといった根幹部分も自分たちで担っています。


最先端のAI技術に注目し、さまざまなユースケースを試す

——武田さんとブルノさんは、ファッション業界におけるテクノロジー活用の展望をどのように考えていますか?

武田: AI技術の発展は、ファッション業界にも大きな変化をもたらすと考えています。ファッションは抽象的かつ曖昧で、従来はその曖昧性をどうにかして数値に落とし込み、システムに理解させる必要がありました。しかしLLMなどのAIの登場により、システムが曖昧性を理解して、直接提案などの出力につなげられるようになりました。

ブルノ: AIはユーザー体験を根本から変革する可能性を秘めていますよね。私は、ファッション業界の未来像はVRゲームなどに近いと思っているんです。「Apple Vision Pro」や「Meta Quest」に代表される、高解像度のリアルなアバターを提供する技術の進歩によって、バーチャルファッションでコーディネートを考える需要が高まっています。将来的にはユーザーの写真を使用して、さまざまなコーディネートを着用した姿を画像や動画で作成できるようになると思っています。

——こうした現状認識をふまえて、MATRIXではどのような研究・開発方針を立てているのですか。

ブルノ:ファッション領域で使用されるAI技術の研究論文数は年々急速に増加しており、特にLLMは特筆すべき進化を見せています。常にAI技術の進歩に注目し、ニュースや研究論文を読み、プロトタイプをテストする必要があります。

武田:その上で、さまざまなユースケースをひたすら試すことが大切です。AI技術の課題である安定性向上は、利用場面やAIに与えるデータの精度に大きく左右されます。高い価値を創造するためにはどのようにAIを活用すべきなのか、追求し続けたいですね。

ブルノ:デバイスについて言えば、MATRIXには「Apple Vision Pro」「Meta Quest」「XREAL」などのさまざまなデバイスを購入してプロトタイプを作成し、テストできる環境があります。

「AI技術」×「人の専門性」で形にするプロジェクト

——具体的なプロジェクト事例についても教えてください。

武田: 私はLLMによる業務改善プロジェクトが印象に残っています。たとえば、ZOZO NEXTが運営するメディア『Fashion Tech News』では、自動翻訳システムを実際に稼働させています。メディアのテイストや独自ルールをAIに覚えさせることで、プロダクトに合わせた翻訳の生成を可能としました。

——特に苦労した点は?

武田:このシステムはメディア運用チームと協力して開発しており、既存オペレーションへの導入やAIの出力比較など、密なコミュニケーションが求められるプロジェクトでした。部署を超えてフラットに意見を出し合い、現場で仕様を決められるMATRIXの環境だからこそ実現できたプロジェクトだと感じています。

開発段階ではAIによる結果が安定しないという問題と向き合い、エンジニアは毎日のようにプロンプト(命令文)やリトライの仕組みと格闘していました。最終的にはルールの設定と入出力の形式を工夫することで結果を安定させ、人によるレビューのフローを介することで、本番に導入することができました。

——ブルノさんは、どんなプロジェクトが印象に残っていますか?

ブルノ:最初に担当したコーディネート提案のプロトタイプを制作するプロジェクトです。AIがユーザーの好みや評価に基づいてアイテムをピックアップした上で、スタイリストが経験に基づいて各ユーザーに最も適したアイテムを選び、パーソナライズされたメッセージを添えるという仕組みを構築しました。

——AI技術に加えて、人が持つ専門性も重要となるプロジェクトだったのですね。

ブルノ:そうなんです。スタイリストに十分な裁量と選択肢を与えつつ、各工程に費やす時間を最小限に抑えるため、ボックスの発送プロセスを手動処理するシステムを開発しました。また、支払いプロセスの管理なども経験し、印象深いプロジェクトとなりました。

VR/AR環境での新たなユーザー体験を創出

——直近で取り組んでいる研究開発テーマについても聞かせてください。

武田:2024年6月には、Apple Vision Proの国内発売に合わせて新たなバーチャル展示会アプリの提供を開始しました。

このバーチャル展示会アプリでは、2020年に開始したZOZO NEXTと東京大学、株式会社細尾による共同研究プロジェクトによって生まれた最新成果展示「Ambient Weaving Ⅱ」を空間コンピューティング技術で再現しています。

Ambient Weavingは、伝統工芸と先端素材、インタラクション技術を組み合わせ、機能性と美を両立する新規テキスタイルを開発する共同研究プロジェクトの過程で創出されたコンセプトです。そのプロジェクトの中で生み出された「環境情報を表現する織物」「環境そのものが織り込まれた織物」を指します。

今回のアプリではこの最新成果展示を、Apple Vision Proによって実際にその場にいるかのように見ることができます。

ブルノ:私はこのプロジェクトのテストに関わり、そのクオリティに感動しました。本当に美術館や博物館で実物を見ているような感覚になりました。

将来的にはヘッドセットなどをより手頃な価格で活用できるようになり、こうしたユーザー体験が身近なものになっていくはずです。

課題を乗り越える方法を自分たちで考え、行動し、検証する

——新規事業開発を進めていく上で、最も難しさを感じるのはどんな場面ですか? 

ブルノ:新技術のアウトプットの質や方向性を見極める場面です。特にAI関連では結果が非常に変動しやすいこともあり、技術がどのように進化するかを予測する必要があります。

武田:プロジェクト内で何度も発生する意思決定にも難しさを感じます。新規事業は基本的に分からないことばかり。どのような形でプロジェクトがスケールするのか、ユーザーはどれくらい集まってくれるのか、そもそもユーザーにとっての新しい価値があるのか。これらの課題を乗り越える方法を自分たちで考え、行動し、検証する姿勢を大切にしています。

——新規事業開発ではZOZOグループの他部門との協働が欠かせないと思います。どのように連携しているのでしょうか。

ブルノ:プロジェクト始動時は、まずZOZOのCTO直属組織である技術戦略部へ提案し、そこでプロジェクト内容や管理体制について検証され、必要なアドバイスを受けることができます。このプロセスによって適切に情報共有した上で他部門と連携することができます。

武田: ZOZOの他部門やチームと連携する機会として、具体的には定期的に開催されている技術共有会が挙げられます。これはフロントエンドやSREなどの技術領域ごとに開催されているもので、MATRIXでの取り組み内容や困りごとについても相談させてもらっています。

——他部門・他チームと連携していく上で、MATRIXの組織にはどんな強みがあると感じますか?

武田:主体性を持てることです。どのようなプロダクトを作るのか、どんな技術を使うのか、どの部分に重点的に予算を使うのかなど、さまざまなステップをボトムアップで進めていくことができます。組織内には明快な相談・承認のフローがあり、周囲の協力を得る際に困ることはありません。

ブルノ:同感です。自由度の高さと柔軟性がMATRIXの強みですね。アイデアを提案しやすい文化があり、状況に応じてプロジェクトの目標を調整し、必要であれば技術を変更することもできます。この柔軟性のレベルは以前の会社では経験したことがなく、とてもユニークだと思います。

最新技術をどんどん試し、「楽しい部分に注力できる」チームへ

——新規事業開発を経験し、2人のキャリアビジョンにはどのような変化がありましたか?

武田:実を言うと以前は、「新規事業ばかりやっていると器用貧乏になってしまうかも」と不安に思っていた時期もありました。向き合うテーマや技術が目まぐるしく変化していくので、一つのことを突き詰められないかもしれないと思っていたんです。

でも実際にやってみると、「自らで事業の目的を設定し、技術選定を行い、その結果を短いサイクルで検証する」ミッションが新たなキャリアにつながっていると感じるようになりました。具体的に目指しているのは「Technical Product Manager」と呼ばれるポジション。この役職では開発だけでなく事業企画を提案するスキルも求められます。幅広い技術を深く知り、実際にプロダクトでどのような影響が出るかも含めて学べる現在の仕事は、まさにこのキャリアに続いていくものだと思っています。

ブルノ:私は新規事業開発を通じて、著作権の確認やコードのレビュー、デモのテストなど広範な実務を経験することができました。研究論文に頼るだけでなく、自らで考え独立した判断を下す習慣も身に付いたと感じます。

現在では使用する技術について、より深い見識を持つようになり、目標に対して技術が適しているかどうかを迅速に評価できるようにもなりました。これらはプロジェクトを前進させるための重要なスキルであり、さまざまなポジションで生かされるはずだと思っています。

——MATRIXで新規事業開発に携わるメンバーには、どのようなスキルセットやスタンスが求められるのでしょうか。

ブルノ:ウェブのフロントエンド開発においては、iOSやAndroidなどのさまざまなプラットフォーム、UnityやUnreal Engineを含む多様な技術での開発が求められます。主にホスティングプラットフォームで作業しているため、AWSやGCPの経験も必要です。

しかし、技術的なスキルがあるだけではなく、技術に対しての情熱や、新しい技術に常に関心を持ち、挑戦を楽しむ人材を必要としています。

武田:私たち自身が経験してきたように、自分で考え、自分でプロジェクトを前に進めていくスキルやスタンスが求められるのだと思います。新規事業のように未知のテーマに挑む際には、既存の知見だけではどうしても足りず、自分自身で試行錯誤することが欠かせません。特に最近はAIが台頭してきたことにより、こうした力が以前にも増して重要になっていると感じます。

——2人は今後、MATRIXでどのようなプロジェクトに挑みたいと考えていますか?

武田:とにかくAI関連のプロジェクトに取り組んでいきたいと考えています。プロダクトに取り入れていくことはもちろん、開発プロセスもAIによる改善を進め、この仕事の楽しい部分だけに注力できる体制を作れたら最高だと考えています。単純作業をできるだけ排して、興味のある最新技術をどんどん試していけるチームにしたいですね。
ブルノ:私もAIが大好きなので、その可能性をさらに追求していきたいですね。特に興味を持っているテーマは「AIとARの統合」。AR市場におけるデバイスやインフラの進化を見据えながら、ユーザー体験を根底から覆すような挑戦を続けたいと思っています。

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